時間の種

3年目の春が近づいている。サクラの花も待ち遠しい。僕が仲間たちと進めてきているプロジェクトも3年目にさしかかろうとしている。

『サクラを植えるプロジェクトですね』と言われることがある。
『まったく違います』とずっと答え続けている。
サクラを植えるのが目的のプロジェクトではないからだ。
人と、場所と、未来の物語を創るプロジェクトだからだ。

僕にとってサクラはひとつのツールです。サクラが様々な人間の物語を投影できる役割をもっているからこそ、サクラは物語を集めたり、紡ぎ直したり、生み出したりするswitchになる。僕はその年に1度咲くswitchをきっかけに使って、人の語り合いが始まったり、人の気持ちの変化が生まれ、新しい動きが生まれ、おそらくコミュニティーも出来たりして、風景が生まれ、文化が生まれ、産業を起こす計画を生んだりしている。そして、人がつながって、人の行き来が生まれる。これらはまさに無数の物語の一端だと想います。

これらの物語を生む場を創り、物語を再生・再編して、未来への様々な計画を共に考え、協働し続けて行くことが僕の役目であり目的です。

そのツールとしてのサクラの役割が、僕にとってはその美しさと同等にサクラの魅力のひとつであったりもします。

2013年。今年も日本全国いろんなところでサクラが咲きます。いろんなところでサクラが飾られます。花咲くサクラは切られて活きることもあると想います。そしていろんなイベントが東京を中心に各地で催されることでしょう。

でも、僕と、東北の地域で出会った仲間たちとのサクラはまだまだ咲きません。
だからこそ、花待つ時間がいろんなものを生んでいきます。物語の重なりを生みます。人の気持ちとアクションが変化して行きます。これがぼくらのプロジェクトです。

2013年3月17日。石巻市渡波(ワタノハ)に庭を創り始めます。
【ワタノハノ庭】。みんなで創る、みんなで育てる、パブリックガーデンです。家も職場も憩いの場も無くなった地に、いろんな人との関わりを生む未来へ向かっていく庭を創り始めます。無数の物語が交叉していく庭です。人の物語がその場所で交叉し続ける以上、いつまでたっても進化し続ける“未完の究極の庭”になることが目標です。

そこにはかつてその地にあって家族に空気のように愛され、津波の潮で枯渇したサクラから継いだ苗木も一本植わります。

でも、本当にみんなで植えるのは、未来への時間の種だったりします。

2013年の春。サクラ待つ僕の時間は、そんな庭づくりの時間になっています。

全身全霊で。