前略、プロジェクトの軌跡 vol.1 ~2013.3.17 石巻ワタノハノ庭(後編)~
「ようこそいらっしゃいました!」。準備も終わり、東京から遠路はるばる来たお客を迎えるメンバーたち。そういう観点からすると私もお客なんだが…。
「田中さん、来たよ~!」。早起きして遠距離まで来たにも関わらず、みんな笑顔だ。少子高齢化で将来を懸念する記事などが多く見られるが、少なくとも今日の人たちにその懸念は必要なさそうだ。しかし、あの庭を見た途端にその笑顔が曇ってしまわないか、ツーリストである私でさえも、少々の不安を感じた。
集合した三国商店から徒歩で庭まで向かう。「ここは私が通っていた小学校です。ここは…」。石巻に初めて訪れた人々(私も含む)は、三国さんの説明を聞きながら、みな思い思いに現場へと歩みを進める。徐々に訪問客たちの温度が上がっていくのが感じられた。
「庭をつくるにあたってはまずは皆さんに土を耕していただきます。その際、ガラス片やでっかい石などに注意してください」。庭に到着し、田中の説明に耳を傾ける。その庭は一見整備されているようにも見えるが、震災後にとりあえず慣らした程度で、実際に掘り返してみるとガラス片や石、木材や生活用品など、あらゆるものが出てきた。私が掘り返したものはガラス、石、木片だけでなく、食器片、おたま、カラメルソース、鉄アレイ(?)等など…
最初は黙々と作業していた訪問客たちも、徐々に土がきれいになるに従って、「田中さん、この根っこ切っちゃって!」等、積極的になっていく。これは土を耕す、という過程を通じ、三国さんの庭を他人事からジブンゴトへしていく、そういうことなのではないか。コミュニティデザインについて勉強する上で、「他人事からジブンゴトにしていくことが必要」という理論はわかっていたが、こういうことかと、身を以て実感する。
「イカも焼けたので、とりあえず昼食にしましょう!」。三国さんのお母さんとそのご友人である阿部さんが、昼食としてイカを焼いてくださっていた。イカを食べつつ、地元で採れたワカメが入った味噌汁をいただく。「この味噌汁に入っているワカメは、わかいうちに採ったもので、東京で皆さんが食べられるワカメはもっと後のもの、わかいうちに採ったものの方が歯ごたえもいいし、おいしいんです」。三国さんが説明する。そんな説明を聞くと、何気なく食べていた味噌汁も特別な味噌汁のように思えてくる。その土地その土地の名物を食べる。旅の醍醐味だ。この時だけ、ツーリストであったことを思い出す。
昼食後、作業再開。ある程度耕されてきたところから、肥料や水などを混ぜて花などを植えられるような土にしていく。そうしてできた土壌に、ようやく花の苗や球根を植え付けていく。今日の人手はおよそ30人弱。1家族では時間がかかる作業も、多くの人が共同で行うことによってあっという間に進んでいく。すると、それまでは何もない土地だった場所が、徐々に庭に思えてくる。「あ、庭だ」。私がそう感じたとき、三国さんのお母さんがぽつりと語りだした。
「ここにキンカンの木があって、こっちにも木が。そうだ、ここは縁側で…」。一つ一つ、思い返すように語る。座り込み、じっと庭を見つめるお母さん。その後ろ姿をただただ見つめているだけだったが、それでいいと思った。
庭が完成した。完成といっても、これはあくまで第一段階でしかない。今後は植えた苗や球根を枯らさないように水を与えたり、肥料をやったりといった、継続的な作業も必要になってくる。1年後、2年後と、植えた苗や球根が枯れずに花を咲かせていたら。庭がさらにきれいになっていたら。我々はその目撃者となる必要がある。そう思った。
笑顔で帰っていく訪問者たちを見送り、我々も三国商店を後にする。「またね!」。同じ歳ということもあり、三国さんとはすっかり意気投合、彼に会いに行くというだけでもここに来る理由が出来てしまった。誰にでも分け隔てなく接する彼の人柄は、いつここに来ても皆を受け入れてくれることだろう。
石巻から車を走らせ、19時前に仙台に到着。新幹線に乗り込み、4人席にして弁当片手にビールで乾杯。今度は心から旨いビールを飲むことができた。酒を酌み交わしながらの帰り道は、行きとは打って変わってあっという間で、2時間ほどで東京に到着した。「もう東京か」。さっきまでいたはずの石巻の風景が同じ日本とは思えないような、そんな感覚に陥る。
「お疲れ!」。田中たちと別れ、石巻でのあっという間の1泊2日を思い出しながら家路に向かう。
そしてまた明日から、私の日常が始まる。
text_Takashi Sasaki