おわりとはじまり

小さな命を土に植え、大切に護るためのネットが張り巡らされた。

ふと、少し海寄りの、傾斜地を下ったところに大きな桜の巨木が2本立っている。及川さんや手に手をとってネットを張った男達や、楽しみで一旦家に帰ったのにまた見に来てしまったあの女性の生き様を、ずっとこの場所から見守ってきた神社の大きな桜の木。

「こりゃ、てんぐ巣病だなぁ」

「そう、だいぶひどいね」

誰ともなく、口々にそう言う。

「いま植えた新しい苗木に伝染しないか?」

「するかもしれない。枝も幹もだいぶやられている」

「新しい木を植えたから、というわけではないけれども、ちょうど今日ここにチェーンソーを持った木を伐る専門家が集まっているわけだし、ひとつ区切りってこともあるし、伐ってしまうという選択もありますよ。」

奥田さんが区長である及川さんに判断を求める。

数秒の沈黙が流れた。

「うん、伐ろう。お願いします。」

及川さんの判断は、速かった。

エンジンオイルとチェーンオイルが混じり合って少し焦げ付いたような独特の臭いがあたりに立ち込める。チェーンが高速で回転する金属の擦れ合う音が、耳の奥に残りながら頭の中を駆け抜けていく。

数十年を超える歳月を、ここ十八成浜の社の際に立ち続け、海のほうを睨みながら人々の生活を見守ってきた大木が2本、いまその生涯を終えようとしている。